TOP> 撥油フォトレジストの解説と事例紹介
撥油フォトレジストの
解説と事例紹介
撥油フォトレジストは表層部に撥水撥油性を有する感光性撥液材料です。応用事例としてインクジェットOLEDディスプレイ分野でのバンク材用途を挙げ、詳細を解説します。

撥油フォトレジスト資料

撥油フォトレジストに関する資料はこちらからダウンロードいただけます。
具体的な活用例も記載しております。

URLをコピー

撥油フォトレジストの基礎と応用事例について

撥油フォトレジストとは、電子基板や半導体製造などのフォトリソグラフィ工程で使用されるフォトレジストに、フッ素による撥油性能が加わった組成物です。

この撥油フォトレジスト技術は、進化する電子デバイスの基板製造に求められる微細加工の実現や製造上の課題を解決しています。他にも様々な電子デバイス製造の課題解決の可能性が見込まれる技術です。

撥油フォトレジストの基礎知識と、この技術を活用した応用事例をご紹介します。

01/撥油フォトレジストとは

撥油フォトレジストとは、電子基板や半導体製造などのフォトリソグラフィ工程で利用されるフォトレジストに撥油機能を備えたものです。
フォトレジストは、感光性により任意の形状を形成する機能を備えています。このフォトレジストに撥油技術を加えたものが、撥油フォトレジストです。撥油フォトレジストは、先進電子デバイスの基板製造などに求められる微細加工など、製造上の課題を解決しています。
撥油フォトレジストを構成する、フォトレジスト、撥油、それぞれの機能について、概要を解説します。

フォトレジストとはフォトリソグラフィにおける役割

フォトレジストとはフォトリソグラフィにおける役割

フォトレジストとは、電子基板や半導体製造などのフォトリソグラフィ工程で使用される光感光性組成物です。
フォトリソグラフィとは、写真現像の仕組みを応用した技術です。基板(ウェーハ)にフォトレジストを塗布した後、原版となる微細な回路パターンが描かれたフォトマクスを介し、紫外線(UV光)などで露光させて現像します。リソグラフィとも呼ばれます。
使用するフォトレジストには、ポジレジストとネガレジストの2種類があります。ポジレジストとは、フォトマスクを通してパターン露光した部分が現像で無くなります。一方、ネガレジストはパターン露光した部分が残ります。
フォトレジストは、フォトリソグラフィでの微細なパターン露光、現像を実現します。

フォトリソグラフィ工程は、ウェーハにフォトレジストを塗布後、プリベーク(加熱による溶媒の蒸発)、パターニングされたフォトマクスを紫外線(UV光)で照射、露光、現像、ポストベーク(密着性の向上)を経てパターン転写が完了します。フォトレジストが持つ感光性はフォトリソグラフィでの微細なパターン露光、現像を実現します。半導体製造においてはnmオーダーでのフォトリソグラフィが行われます。

図1: フォトリソグラフィ工程

ウェーハにフォトレジストを塗布後、プリベーク、パターニングされたフォトマクスを介し、紫外線(UV光)で露光、現像、ポストベーク経てパターン転写が完了します。

撥油技術とは液体をはじくメカニズム

撥油技術とは液体をはじくメカニズム

撥油技術のメカニズムは、フッ素加工されたフライパンで観察できます。
フッ素加工されたフライパンの表面に垂らされた油(液体)が、丸い形状でコロコロと転がるのは、液体と固体の表面張力、および界面張力のつりあいの関係が生じているからです。

この状態の固体表面と、液体接点からの接線の角度θを、濡れ性(接触角)と言います。この関係はYoungの式(図2)で表します。関係式にもある各項の表面(界面)張力が変化すれば、濡れ性(接触角)は変化します。例えば、固体の表面張力(γS)を小さくすれば、固体は濡れにくくなり、液体をはじきます。つまり、撥油は固体側の表面張力を小さくする技術です。

撥油性を向上させるためには、撥油材をコーティングしたり、固体自体に表面張力の小さい基材を用いたりします。

固体表面上での液体の濡れ性を表す図が表示されている。液体と固体の表面張力、および界面張力のつりあいの関係が生じている場合の固体表面と、液体接点からの接線の角度θを、濡れ性(接触角)と言う。この関係はYOUNGの式で表せる。

図2: 固体表面上での液体の濡れ性を表す図

YOUNGの式はγS=γSL+γL cosθで表す。式を構成する各項は次の通りである。γLは液体の表面張力を表す。γSは固体の表面張力を表す。γSLは固体と液体の界面張力を表す。

AGCセイミケミカル株式会社
http://www.seimichemical.co.jp/product/fluoro/AGCセイミケミカル株式会社

撥水・撥油の技術と材料 シーエムシー出版
https://www.cmcbooks.co.jp/products/detail.php?product_id=7546撥水・撥油の技術と材料 シーエムシー出版

撥油フォトレジスト資料

撥油フォトレジストに関する資料はこちらからダウンロードいただけます。
具体的な活用例も記載しております。

02/有機ELディスプレイ製造における
撥油フォトレジストの応用事例

ここからは、撥油フォトレジスト技術が有機ELディスプレイ製造で必要となった理由、解決した課題、求められる仕様などについて、具体的に解説します。

ここからは、撥油フォトレジスト技術の応用事例として、有機ELディスプレイをとりあげます。有機ELディスプレイ製造において、撥油フォトレジストが必要となった理由、解決した課題、求められる仕様などについて、具体的に解説します。撥油フォトレジストの可能性について、本事例を元に是非ご検討下さい。

有機ELディスプレイ基板製造に撥油性が必要となった背景

有機ELディスプレイ基板製造に
撥油性が必要となった背景

従来の有機ELディスプレイ基板製造方式には「白色蒸着+カラーフィルター方式」「RGB蒸着方式」がありました。これらの製造プロセスには、大型の真空装置や精細なマスクが必要でした。しかし、これら方式でのディスプレイ大型化は技術的に難易度が高く、低い生産効率に伴う製造コストの増加や、低い材料使用効率による材料コストの増加、環境負荷などが課題でした。

これに対し研究開発が進められてきた「RGB印刷方式」は、大型真空装置の工程を削減し、精細なマスクを必要としません。これにより、中型モニター向けディスプレイの量産化、高生産効率、製造コストのダウンを実現しました。株式会社JOLEDが「RGB印刷方式」による量産ラインの稼働を2021年より開始し、32型ディスプレイ(OLEDIO™)の生産がスタートしています。

この「RGB印刷方式」の実現には撥油技術が不可欠となります。

撥油技術が解決した有機ELディスプレイでのRGBインク塗り分け

撥油技術が解決した
有機ELディスプレイでの
RGBインク塗り分け

高効率な有機ELディスプレイ製造に有効な「RGB印刷方式」とは、有機ELディスプレイ基板内にあるRGBピクセルへ発光材料をインクジェットによって塗布する技術です。
有機ELは発光材料に有機化合物(インク)を用いています。また、図3のように有機ELディスプレイ基板内には幅10〜30μm、膜厚1~2μm程度のRGBピクセル(画素)が並んでいます。

ピクセルに発光材料となるインクを塗布する際に、隣同士のピクセルのインクが混色しないよう、ピクセルを隔てる壁(バンク)には、撥油性が要求されます。フォトリソグラフィ工程では、RGBピクセルを隔てる壁(バンク)の頂上部分(図4参照)にのみ撥水撥油層を形成し、混色を防いでいます。

有機ELディスプレイ基板 RGBピクセルの図。OLEDディスプレイ基板内には幅10〜30μmのRGBピクセル(画素)が並んでいる。大型OLEDディスプレイ製造に有効な「RGB印刷方式」とは、OLEDディスプレイ基板内にあるRGBピクセルへ発光材料をインクジェットによって塗布する技術。ピクセルに発光材料となるインクを塗布する際に、隣同士のピクセルのインクが混色しないよう、ピクセルを隔てる壁(バンク材)には、撥油性が要求される。

図3: 有機ELディスプレイ基板 RGBピクセル

有機ELディスプレイ基板 RGBピクセルの断面図。撥油フォトレジストの 撥水撥油層の働きを示す。基板上に形成されたバンク材とも呼ばれる撥油フォトレジストのトップには、フッ素成分による撥油(オイルバリヤ)層が形成されている。トップ部のみの撥油性がのこり、バンク側面には撥油性がない。発光材料をピクセル内に均一に膜形成が可能となる。撥水撥油層の形成にはフッ素の表面移行性、配向特性が利用される。

図4: 有機ELディスプレイ基板 RGBピクセル断面図

有機ELディスプレイ基板製造 RGB印刷方式に対応した撥油フォトレジスト

有機ELディスプレイ基板製造
RGB印刷方式に対応した
撥油フォトレジスト

RGB印刷方式に対応した撥油フォトレジストには、フォトリソグラフィ工程において、RGBピクセルを隔てる壁(バンク)の頂上部分のみに撥水撥油層を形成することが求められます。
フォトリソグラフィ工程後の撥水撥油層が形成された基板は、インクジェットによるピクセル内への発光材料(インク)の塗布過程へとすすみます。この塗布過程において、バンクトップ部の撥水撥油層上にインクが滴下しても、撥油性能によって発光材料(インク)が滑落し、ピクセル内に収めるようにインクを制御できます(図5参照)。

撥油フォトレジスト 撥水撥油層の働きを示す断面図。基板上に形成されたバンク材とも呼ばれる撥油フォトレジストのトップには、フッ素成分による撥油(オイルバリヤ)層が形成される。この撥水撥油層上にインクが滴下しても滑落してピクセル内に収まるメカニズム。撥水撥油層の形成にはフッ素の表面移行性、配向特性が利用される。

図5: 有機ELディスプレイ基板 RGBピクセル断面図 撥油フォトレジストにおける撥水撥油層の働き

有機ELディスプレイ基板用の撥油フォトレジストに求められるフッ素の表面移行性

有機ELディスプレイ基板用の
撥油フォトレジストに求められる
フッ素の表面移行性

有機ELディスプレイ基板用の撥油フォトレジストには、フッ素化合物が使われます。
その理由はフッ素の性質である撥油性と空気界面への表面移行性にあります。
理由のひとつである表面移行性はRGBピクセルを隔てる壁(バンク)の頂上部分にのみ撥水撥油層を形成するための重要な性質です。

フッ素が表面移行するのは、ファンデルワールス力(分子間力)が弱く、内部エネルギーが小さいことに起因します。撥油フォトレジスト中の溶媒によりフッ素成分を含む複数の化合物が混合していますが、フォトリソグラフィー工程中で溶媒が除去されるとファンデルワールス力の差によってフッ素成分とその他成分が分離します。空気はフッ素成分同様にファンデルワールス力が小さいため、塗膜の安定化の観点から、他の化合物と比べ相対的に内部エネルギーが小さいフッ素成分が空気界面に移動する傾向となります。(図6参照)。

この特性を利用すればフッ素成分を選択的に表面移行させることができ、バンクのトップ部のみに撥水撥油層を形成する撥油フォトレジストが実現可能です。

撥油フォトレジストにはフッ素化合物を活用する。その理由はフッ素の性質である撥油性に加え、空気界面への表面移行性にある。フッ素はファンデルワールス力(分子間力)が弱く、内部エネルギーが小さい元素。撥油フォトレジストの溶媒中にはフッ素成分を含む複数の化合物が混合しており、ファンデルワールス(分子間)相互作用が大きい状態。対して空気界面はファンデルワールス(分子間)相互作用が少ない状態となる。すなわち、溶液中の化合物安定化の観点から、他の化合物と比べ相対的に内部エネルギーが小さいフッ素成分が空気界面に移動する傾向となる。この特性を利用し、フッ素成分を選択的に表面移行させ、バンクのトップ部のみに撥水撥油層を形成する撥油フォトレジストが実現する。

図6: ネガ型撥油フォトレジストのバンク頂上部への撥水撥油層形成プロセス

有機ELディスプレイ基板用撥油フォトレジストに求められる仕様

有機ELディスプレイ
基板用撥油フォトレジストに
求められる仕様

有機ELディスプレイ基板用 撥油フォトレジストの標準的な仕様は以下となります。

有機ELディスプレイ基板用 撥油フォトレジストの標準的な仕様

  • 接触角水:100° キシレン:46°
  • 膜厚0.5〜2μm
  • 解像度10μm
  • 感光波長i線、 ih線、ghi線

撥油フォトレジスト資料

撥油フォトレジストに関する資料はこちらからダウンロードいただけます。
具体的な活用例も記載しております。

AGCが選ばれる理由

AGCは撥油技術において、先進デバイス製造工程、先進技術研究に関連する事例がございます。
撥油性能を備えた標準品のラインナップのご紹介をはじめ、目的に応じたカスタマイズ品のご提案をいたします。

AGCのカスタマイズ品

電子デバイス製造プロセスや、基材などへのコーティングなど、撥油目的に合わせてご提案いたします。フォトレジスト、インプリント、各種コーティング、マイクロ流路・バイオチップ各分野での提案実績がございます。

AGCの標準品

撥油関連のAGCプロダクトとして、以下ラインナップがございます。

AGCのカスタマイズ品

AGCはフッ素樹脂を原料から製造し、優れた弾く力にて強み発揮するメーカーであり、
お客様の要求性能に合わせ、お客様理解とソリューションを提案し、実用化に繋げたいと願っております。
エレクトロニクス(ナノレベルも含む)、ライフサイエンス、 自動車(モビリティ)分野を中心に幅広い用途のお問合せを頂いております。

  • お問合せ

    お問合せ

    • 素材/設備/装置メーカー
    • 研究機関
    • フォーミュレーター
    • 中間加工メーカー
    • エンドユーザー 他
  • お客様理解

    お客様理解

    • ご検討Phase.
    • プロセスおよび技術要点の理解
    • 標準品の適合可否検討
    • (機密保持契約)
  • サンプルワーク

    サンプルワーク

    • 標準品/開発品のご提供
    • (推奨処理条件のご案内)
  • 評価フィードバック

    評価フィードバック

    • 材料/プロセス面の課題整理
    • 開発方向性協議
  • ご採用

    ご採用

中間工程・最終製品に最適な仕様を一緒にご検討

※一部製品につきましては開発対応を行っておりません、個別にご相談くださいませ